podcast 33 島村菜津さん、スローフド、ドンペリ、鮒寿司

2010年4月26日

(↓黄緑色の三角をクリックすると音声が流れます)

私は、ここ2週間くらいかけて島村菜津さんの本を読んでいました。
その島村菜津さんの著作の一つ
スローな未来へ「小さな町づくり」が暮らしをかえる』という本の中で
滋賀県高島市が紹介されていたことをお話ししたいと思います。

スローな未来へ~「小さな町づくり」が暮らしを変える~

琵琶湖の水系を守り、清らかな水と生きる人々。
伝統に裏打ちされた細やかなまごころ
というタイトルがつけられ高島市が紹介されています。

地域の特徴を生かした特産品や観光、交流の幾つが紹介された中に
海津は湖里庵の鮒寿司も紹介されていました。

その本の中で彼女は
「ドン・ペリニヨンで知られるモエ・エ・シャンドン社の当主をして、
日本食の中でドンペリに最も合うのは鮒寿司といわしめた複雑な味わいと、
凛とした酸味には、素材として琵琶湖の固有種ニゴロブナが不可欠だ。」
と書いています。

滋賀で昔から家庭の保存食として、また美食家の都びとへの高級食材として
受け継がれてきた鮒寿司が、ヨーロッパの美食家をも唸らせるというのは
興味深いです。ドンペリと鮒寿司…どんな相乗効果が味わえるのでしょう~。

<Moët et Chandon>

<Moët et Chandon>

さて、私が島村菜津さんに関心を持つようになったのは
podcast版の学問のすゝめ」という番組の今年2月23日付で
放送された、彼女の回の放送を聞いたのが切っ掛けです。

番組ではイタリアで始まった「スローフード」という言葉を
日本に広めた人として彼女が紹介されていました。

それまでは、私はこのスローフードという言葉が
反ファーストフードという事くらいにしか理解していませんでしたが、
この言葉が人間の生き方として、とても重要なテーマを含んでいるように思いました。

命を持続してくための基本である食事、
具体的には生産し、保存し、運び、加工し、食べるという一連の行為ですが、
それら一連の行為は、グローバルな経済の仕組みの中で
コスト削減や効率が優先されてきました。
それはより豊かになるという目標へ向かっての優先であったはずですが、
現実は豊かさに繋がっていかないのではないか?という話です。

<日本の農地の風景>
<日本の農地の風景>

本の中では更に、これからの未来を想像したときにグローバル経済に乗せた
食糧生産が持続可能なのか?という問題提起と、それの代替案として
小さな町づくりの暮らしというのを提案されています。

グローバル経済は一見、均質で低価格な商品が安定的に手に入る仕組みだと
思えます。しかし問題点として、そのグローバル経済を維持する為に
大量の輸送コストをかけたり、また長距離(長時間)輸送による劣化ロスを
減らす為の保存薬の使用、それから安定的に大量生産をしていく為に
遺伝子組み換えやF1種の使用が拡大しています。

これらの問題は、私達の命に直結する問題ですが、
あまり表立って取り上げられにくい問題です。

グローバル経済ですから、大企業に資本が集約されていきますし、
大企業が経済活動を行う市場規模は国家に影響を与える程です。
実際にFTA関連の問題では日本国が国民の方を見ているか、
輸入先の国の機嫌を伺っているか、どっちなんだ!と
問われる事があるほどです。そのように政治的な問題も抱えています。

<農作業の風景>
<農作業の風景>

当然企業広告を収入源とするメディアは残念ながら私達の味方ではありません。
この本の中では、調味料などの販売を増やす為に調味料を使いたくなるような
味の薄い野菜が作られているという事が書かれていました。
私は「野菜そのものの栄養価値が低下している」との報道が昔あったことを
断片的に記憶していますが、この本を読んで野菜の栄養価値低下は
人為的な原因があるののでは?と思いました。

ドレッシング等のCMが流れるテレビでは、
「野菜そのものの栄養価値が低下している」からドレッシングで、とは
口が裂けても言えない事ですね。既に化学味に慣れてしまっている私自身も
このような調味料が全て無くしてしまうと困るかもしれません。

このような今の事態は、商品を輸出し販売している国や企業だけが
原因ではなく、快適な食事環境を望んだ私達にも原因があると思います。

安くて、早くて、美味くて、安全で、見た目がどれも同じ食べ物が
供給されるバックグランドを想像する事なく、私たちが求めてしまった、
また今でも求めている結果だと思います。

私たちが求めた結果、それが需要となり、
遺伝子組み換えにも繋がっていく大量生産、効率化、人為的な味付け、
保存料の添加、種の均質化などに結びついているという
サイクルが出来上がっています。

<人の生活も持続可能な社会を>
<人の生活も持続可能な社会を>

私はマクドナルドや牛丼も時々は食べたくなるので、
あまり大きな事は言えないのかもしれませんが、
私たちは食料経済の問題点をもっと知るべきだと思いますし、
そのグローバルな食料経済によって地域が疲弊していることも
知るべきだと思います。

多くの専業農家は手間のかかるマイナーな地域野菜を捨てて、需要が多い、
つまりファーストフードやスーパー、チェーンレストランなどで
求められている均質な野菜を生産するようになっていきました。
そうやってがんばって生産しても、さらに売り主はコストを下げるため、
海外から野菜が輸入されてしまう様な時代です。

おそらく販売側は「お客様が望んだ事を私達は提供しています」と
胸を張って言うでしょう。でも、そういう提供を無批判に
受け入れていては、私達は家畜と同じではないかなどと思えてきて、
ちょっと嫌~な気分になってしまいます。

<琵琶湖のえり漁業の仕掛け>
<琵琶湖のえり漁業の仕掛け>

鮒寿司に関連付けて話をしてみますと、昭和から平成に変わる頃、
琵琶湖のニゴロブナの漁獲量は激減し、それによって
鮒寿司の価格が高騰しました。根本的な問題解決はニゴロブナの数が
戻る事ですが、幸いな事に県の水産試験場や漁業関係者の長年の努力で
ニゴロブナの数は増えつつあります。

しかも、その仕組みは孵化から稚魚の時代を
琵琶湖周辺の水田で過ごす、栽培漁業といわれる方法において
大きな効果を発揮するらしいのです。

この、ちょっと人為的な臭いのするネーミングの生育方法は
実は殆ど餌等を与えなくても水田の中で鮒の稚魚が
自力で成長していく自然に近い繁殖方法だそうです。

数千年の間、琵琶湖と水路で繋がった水田を生息場所として、
人間の生活とも密接に関わりながら生き続けてきたニゴロブナの
本来の生息スタイルに近い繁殖方法だといえるでしょう。

<古来からのニゴロブナと水田の深い結びつき>
<古来からのニゴロブナと水田の深い結びつき>

そのようにして、水産資源として回復してきたニゴロブナですが、
鮒寿司の材料としての需要は残念ながら回復していない様です。

ニゴロブナが激減してしまった間に、代替案として
県外の他の種類の鮒で鮒寿司を製造される業者が増え、
さらには中国から鮒が輸入するような自体になった現状を、
水産試験場の方が嘆いておられました。

グローバルな流れが発展すると、そのうち他の冷凍食品などと同じく
材料も加工も外国産の安い鮒による鮒寿司がお土産用として
店頭に並ぶのが当たり前になるのかもしれません。

現在でさえ、(数字の根拠は今ひとつ不明ですが)年間200tの鮒が
鮒寿司に利用されている中で、ニゴロブナの漁獲量は39tとなっていますから、
鮒寿司に占める割合は2割程度ではないかと想像できます。
しかも家庭で消費される分を除くと店頭販売の鮒寿司の内の、
ニゴロブナの割合はもっと下がるでしょう。

<天然もの鮒寿司のアップ>
<天然もの鮒寿司のアップ>

一旦そのような経済の流れが出来てしまうと、
いくら琵琶湖のニゴロブナが増えても、昔のように鮒寿司用の需要は
なかなか回復しないようで、漁協関係者も嘆いておられると
水産試験場の方が話しておられました。

悪夢の様な循環が起きていますが、
それでもダメなことばかりが起きている訳ではないようです。
二月に参加したフナズシ品評会では琵琶湖汽船の方と隣席になり
以下のようなお話を伺いました。

昨年、沖の島の漁協と琵琶湖汽船が組んで観光客向けに
鮒寿司講習会を開催した所、予想を上回る参加者があったそうです。
やはりニゴロブナで鮒寿司を漬けたいと望んでいるお客さんが
沢山いると手応えを感じましたと、話しておられました。

地域の交流で経済活動が発展していく具体的な可能性のある
実例だと思います。

<観光船、葛篭尾崎の奥に伊吹山>
<観光船、葛篭尾崎の奥に伊吹山>

島村さんの本には、それぞれの地域が地域らしさを活かして
展開していく考え方として、「ないものねだりから、あるもの探しへ
という結城登美雄さんの言葉もキーワードとして紹介していますが、
まだまだ気が付かない地元の宝物はあるのだと思います。

近江商人の「三方良し」の考え方と合わせて、
自分の住んでいる地域らしさを活かした経済活動の可能性を、
もっともと考えていきたいなぁと、そんな事を思いました。

そろそろスローフード―今、何をどう食べるのか? (ゆっくりノートブック)

<リンク>
ラジオ版 学問ノススメ 島村菜津さんの回
私の湖里庵の記事
私の手作りフナズシ品評会の記事

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