podcast 27 湖里庵で女将さんに伺った話 海津の桜、遠藤周作と竹生島

2010年3月16日

湖里庵の食事のを記録した記事は消えてしまいました(泣)

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podcast 27 第27回の訂正のお知らせ

2010年3月16日

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2010.03.16 第27回の訂正のお知らせ海津大崎の桜を
6,000本と言ってしまいましたが600本の誤りでした。

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今回は憧れていた高島市マキノ町の湖里庵に行った話、
なかでも、女将さんに聞かせて頂いたいくつかの
エピソードを話したいと書きたと思います。

1、海津の桜

狐狸庵先生はたいそう魚治の鮒寿司を気に入られたと同時に、
この奥琵琶湖一帯の風景を好まれたそうです。

海津には琵琶湖八景の一つに数えられる、
海津大崎の岩礁」というのがあります。
急勾配の威圧感のある山並が静かで雄大な琵琶湖にせり出して、
そのまま先端が湖底に沈み込んでいる、
とても神秘的な景色が見られる場所です。

ここはまた、湖岸道沿い4kmに渡って約600本の桜並木が続き、
観光客でにぎわう所ででもあります。

狐狸庵先生がよく来られていた20年程前は、
まだ車で大渋滞という事も無く、延々と続く桜満開の花道を
一人歩いて散策を楽しまれたそうです。

<海津大崎の桜並木の入り口>
<海津大崎の桜並木の入り口>

因みにこの桜並木は昭和11年(1936年)に
大崎のトンネルの開通を記念して
地元の当時の海津村が植樹をされたものだそうです。

そのきっかけは、さらにその5年前に道路補修をする
修路作業員として働いていた宗戸(むねと)さんという方が、
作業の合間に自費で苗木を植えられ、
それが数年後に花を咲かせるようになると、
青年団の方々も加わり、植樹の活動の輪が大きくなっていったようです。

六十数年の活動の間には地元の商工会青年部の方々も
活動に加われて、その活動は現在の桜並木の保存会の活動へと
繋がっているという事のようです。

その話を伺って、私達も商工会関係者青年部の関係者ですから、
女将さんと何か連帯感みたいな雰囲気が生まれたように思います。

地元の人が一生懸命、風景を守ってきたんですね
と話しましたら、
滋賀県は他府県に負けない、綺麗な風景や美味しいものもが
沢山あるのに宣伝下手というか商売下手なんですね〜
と女将さんは言われました。

<玄関に飾られた記念写真>
<玄関に飾られた記念写真>

2、遠藤周作

湖里庵というお店の名前ですけれども、
これはご存知の方もおられると思いますが、
違いがわかる男「狐狸庵先生」こと遠藤周作さんが
名付けられた名前です。

女将さんの話によりますと、遠藤周作さんは最初どちらかの鮒寿司を
食べられて大変それが不味かったらしく、その後縁あって
マキノの魚治の鮒寿司に出会われ、とても気に入られた
というのが交流の始まりだそうです。

最初に不味い鮒寿司に食べてしまったら、
普通はもう懲り懲りだと思うでしょう。けれども
「鮒寿司は美味いはず」と執念で探されたのでしょうか?
そういうエピソードも狐狸庵先生らしい魅力に私は感じました。

魚治でも、以前は普通の懐石料理に
ちょっと鮒寿司を取り入れた料理をだしておられたようですが、
鮒寿司を気に入られた狐狸庵先生が
ここでしか食べられない料理を考えなさい」と言われ、
ご主人が鮒寿司懐石を考えられたとの事です。

現在はご主人は亡くなられ、息子さんが
湖里庵の味を引き継がれています。

確かに鮒寿司懐石とすることで、
単なる懐石料理ではだせない存在感や自己主張が出ますね。
わざわざ都会から電車に乗って食べに来られるお客さんも多いらしく、
うまく本物の地域資源を活かした成功例だなぁと思いました。

本物ということでは、
遠藤周作さんのこんなエピソードも教えて頂きました。

或る日のこと、改築されて「湖里庵」と名付けたこの建物で
遠藤周作さんが「闇笛」という食事会をされたそうです。

「闇笛」とは照明を消して演者の笛と琵琶湖の波音の中で食事をする会で、
笛を演奏される演者はわざわざその為にだけに東京から来られたそうです。

せっかくの機会だから一緒にどうぞといわれて、
演奏される部屋に同席させて頂きましたが、
住む世界の違う人は、なされる事も違うなぁ
と女将さんは思ったそうです。

ところがその後、
発表された時代小説で同じような場面描写が書かれてあったので、
この場面を書くために「闇笛」を催されたのだと分り、
また後の順子夫人のエッセイの記事で、
食事もせずに帰られた演奏者の方がとても高名な方だったと知り、
大変びっくりしましたとお話しされました。

私達が食事している部屋とふすま一枚隔てたとなりの部屋で、
400年前を想像しながら、彼が薄暗い中で笛の音を聞いて
食事をしていたと思うと、ちょっとゾクゾクッと来ました。

湖里庵にて沢山の方と食事をされる時などには、
全ての方に細かい気配りやユーモアを交えた会話をされる優しい方でした
と女将さんは当時の事を思い出してお話ししてくれました。

<マキノと西浅井の間の山>
<マキノと西浅井の間の山>

3、竹生島

さて、遠藤周作さんと湖里庵との関係についての話は
これくらいにしておき、湖里庵に来て気が付いた
湖北と湖西の文化的な違いについて書きたいと思います。

先ほども書いたように、
昭和11年に海津大崎のトンネルが開通しました。
これ以前は陸路で隣町の西浅井町までは直通路は
峠越えしかありませんでした。

海津(湖西)から西浅井への道は犬も帰ってくると言われる程
湖北地方(旧浅井郡)は彼方の疎遠な地だったようです。

実際に陸路では西浅井町(旧浅井郡)への往来より
日本海方面、敦賀、金沢方面との往来のほうが多かったと
話されていました。

<海津の街並>
<海津の街並>

その交通頻度の少なさは文化宗教面でも現れています。
これは女将さんの方から話された事ですが、
そちら湖北の方では『竹生島信仰』ってありますでしょう?
こちらでは全くないんです。竹生島も見えませんしね
と話されました。

竹生島は滋賀県北部では相当メジャーな存在だと
思っていましたが、一山越えると、それほどまでに
文化的な断絶があるのかと、ここに来て改めて実感できました。

ちなみに、食事の帰りはちょっと道を間違って
遠回りで海津大崎を回る道を帰ったのですが、
人気の全くない山と湖の間の暗闇を走っていますと
立派な角を持った鹿に出会いました。
現在でさえそのような人気のない山が両地域の間にあるのですね。

このように地上ではつい数十年前までは
断絶といえる程交流の無かった両地域の人間を、
琵琶湖の恵みである鮒寿司は引き合わせたというのは、
なかなか面白いなぁと思いました。

最後の最後の話

鮒寿司懐石ですが、
こんなに美味しい鮒寿司料理を初めて、しかも腹一杯に食べました。
何も残しませんでしたが、ちょっと塩分の方も沢山取ったようです。
家に帰ったらノドかカラカラでした。

<女将さんと記念撮影>
<女将さんと記念撮影>

Comments (2)

橋本英一7月 30th, 2011 at 11:39 AM

富岡さんのお口は繊細なのかもしれないですね。

>何も残しませんでしたが、ちょっと塩分の方も沢山取ったようです。
家に帰ったらノドかカラカラでした。

狐狸庵」がお盆休みに入るまえ晩の予約を引き受けてくださって松阪から遠路とおしとせず
4人で評判のフランス料理の香りを加味した「鮒ずし会席」をいただきに行きました。仲間の長老は90歳ではありましたがお酒の方も70数歳の私たちに引けを取らない健啖家でした。お江戸の味噌屋のオーナーで醸造に関しては専門家でいらっしゃいました。「狐狸庵」での食事は生涯最後の快挙だったと喜んでくださっていましたです。
その際のお料理では決して塩分の多い品は覚えがありません。全体でも大変結構なお持て成しがいただけました。
富岡さんは会席料理が供される前にすでに下腹が入っていたかもしれませんね。
これは 私見の あくまで狐狸庵さんの若さんの一つの弁護に過ぎません。今も季節ごとのすばらしい案内ハガキを読むたびに再度の訪問の気持ちが高まります

冨岡8月 7th, 2011 at 12:00 PM

橋本様、返事が遅れて申し訳ありません。
そうですか、橋本様も湖里庵へ行かれましたか。
湖里庵は本当に素晴らしいお店ですよね。

食事を頂いた時、私たちの一行では追加で
鮒寿司のスライスを一匹追加で頼みましたが、
その半分以上を私が食べてしまいました (^^ゞ
(頭や尻尾も茶漬けに入れて食べてしまいました)

通常の会席の量より余計に食べていますから、
それも影響しているのかもしれませんし、
口が繊細?かどうかは分かりませんが、
どちらかと言えば私は薄味が好みですから、
身体もそのように反応したのかもしれません。

5月に催したオフ会でも、鮒寿司茶漬けの
組み合わせとして鮒寿司の切り身、卵の部分と頭の部分、
塩昆布、鰹節、ネギの輪切り、それらをご飯に載せて
熱々のお湯かお茶を注ぐだけでも、私は美味しい味が
染み出すように思いました。

けれども、参加者の方にはそれだけではもの足らず、
醤油かワサビ等があると良いと言われる方もおられました。

客観性というか、多数が同意するような評価の
技術を私は持ち合わせていませんので、
その辺りはご容赦下さい〜♪

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